優しい胸に抱かれて
「アルバム、見たい」

「アルバム?俺の?」


紗希のアルバムは見ておいて、そういや俺のは見せたことがなかった。

いや。正直、見せられたものじゃないからだ。


まず、片付いていない家の中で撮られたものは、もちろん小ぎれいなわけがない。汚い部屋が写真として残されている。なぜか食卓の上に工具が置いてある家だった。姉が片付け回っていなければ今だって、どこをどう切り取っても綺麗とは言えないはずだ。

それに、田舎の下品なおやじ連中に囲まれた写真ばっかりで、記憶にもない頃の俺は、大概真っ裸で外で遊んでいたり。夏になればそのおやじ連中は上半身裸になって、作業する周りをちょろちょろした写真とか。

今の時代、安全安全とうるさくなって、長袖着用の作業が義務付けられているが、昔は何でもありだった。酷い時はパンツ一丁、それを真似している俺とか。

それに比べて、紗希のアルバムは綺麗だった。一人っ子で大事に育てられたんだなっていうのが一目でわかる。

かっちりとした恰好でお行儀良くて、片付いた家の中で取られた写真は上品で。七段飾りの雛人形の前で、きちんと正座した写真なんて見た後に、どうして見せられる?


とてもじゃないが、見せられないだろ。


「うん。見たい!」

「…無理です」

けんもほろろに答えると、紗希の表情から笑顔が消える。眉を寄せ、右手の親指と人差し指が左手の薬指を包む。

容易に外された指輪を、俺の手を取って掌へと押し付ける。

小さな指輪は、再び俺の元へ舞い戻ってきた。


「じゃあ、返す」

「何で?」

「見せてくれないんでしょ?」

「だからって…」

「だって、全部受け止めるって言ってくれたのに、受け止めてくれないから」

俺の話を遮って、そう言った紗希は眉間の皺をより深く刻む。


待て待て。それとこれとは意味が違う。

要するに見たいと言っているんだからつべこべ言わず見せろってことか?どういうことだ?いつものようにもっと解り易くしてくれよ。
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