優しい胸に抱かれて
返すって言葉の意味をそのまま受け取ると、俺は突き放されたってことか?


あまりの唐突さに、頭の中が整理しきれない。


「そりゃあ、言ったけどさ…」

考えを読み取ろうと、真っ直ぐに見つめる紗希の瞳を、まじろがずに見るも、さっぱり解けず続く言葉が出てこない。


「それとも、あの言葉は嘘だったの?」

黙り込んだ俺に、試すかのように動揺を誘う。


現に紗希の漆黒の瞳には、焦る俺の顔が映り込んでいた。


いや、嘘ではない。紗希のわがままなんてものはかわいいものだ。したいこと、やりたいことは何でも聞いてやりたい。

受け止める、確かにそう伝えた。もちろん、その想いには偽りはない。

だけどさ?

だけど、アルバムごときにこの指輪を返されては困るんだよ。これじゃ、いくつ指輪があっても足りないだろ。そういう問題じゃなさそうだ。

それとも、それほど見たいってことなのか?


眉間を寄せて怒っているようにも見える。なのに、口元はどこかあどけなくも映る。

元々、突拍子のないことを言ったり、話に脈絡がないことはただあるし。でも、みんなが言う馬鹿ではなく、いろいろ考え過ぎての発言だから、紗希が考えている間に話が進行しているか、戻っているかであって。思うところは何となくわかる。にしても。


突き返された指輪をだた見つめるしかできない俺には、全く考えがわからなかった。


今回ばかりはお手上げだ。まるで読めない。


紗希、どうしたんだ?

で、こんなに胸がざわざわしている俺も、どうしちゃったんだ?
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