優しい胸に抱かれて
思わず、面倒くせぇ。煙と一緒に言葉が出そうになった。代わりに違う言葉をくれてやる。

『同期が結婚すんの、そんなに淋しいのかよ?』


困ったような苦笑いを浮かべ、『そんなんじゃ、ないんですけどねー…』と、吐き出された煙は、空の雲に重なって同化した。


『けど、何だよ?』

『…そろそろ、身辺整理しなきゃならない年になったのかと思ったら、鬱で…』

『ツケが回ったな』

『でも、やめられないのが、合コンってもんでして…』


やめる意思がないのにやめようと考えるのは、病気としか言いようがない。また俺が鼻で笑った後。


『そういう日下さんこそ。淋しいんでしょ?』

平は、何に対しての問いなのか、わからないことを言った。


『気味悪ぃこと言うな』

『柏木のこと、なんだかんだ好きなくせに…』


あぁ、そっちか。と、煙を揺らした。

てっきり、同期の工藤に先越されて淋しそうに見えたのかと思っていたが、柏木の方だった。


『あ、好きとは違うんでしたっけ?なんだかんだ切りたくても切れなくなっちゃった。そんなとこっすか?』

『…わかってんなら、言うんじゃねぇよ』

ニタニタする平に最後の煙を吹きかけ、水が張った灰皿に短くなったフィルターを落とす。ジュッと音が届き、居心地の悪さからもう1本煙草取り出し、すぐさま火を付ける。


俺の隣に座った平は、ずっと、聞きたかったんですけどね?そう切り出した。それに続く台詞は大体想像がつく。


『“彼女”さんと付き合うってなった時、周囲の目とか体裁とか考えなかったんですか?』

平が意図的に強調した言葉に俺は、溜め息と共に煙を吐き出した。


いい質問だな。おかげで煙草が不味い。
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