優しい胸に抱かれて
 できることならなんのことかわからないと白を切り通したかったのに、私にはできなかった。

「他の、感情って…?」

「紗希がずっと隠してた感情のこと」

「…そんなのない。隠してたなんて、無い…」

「紗希の一番の悪い癖」

 静かな声に、目頭が熱くなる。ぐっと堪えてかき消すかのように頭を何度も振った。

「やっぱり、無い」

「俺にはあったように見えたけど?」


 隠していた感情、私の一番の悪い癖。そんなの、無い。


 今、聞かなければ二度とチャンスはないだろうと。ずっと心の奥に留まり続けたわだかまりは、気抜けすることなくあっさりと口から出てきた。

「あったとして…、だから別れたかったの?」

「…それとは別だな」

「じゃあ、どうして…?」

「俺の問題」

「わからない」

「うん、内緒」

「……」

 溜め息をこれでもかと、思い切り吐きたいと思った。

 代わりにそっぽを向いた。別にふてくされているわけじゃない、結局、聞きたかったことも教えてくれないなら、だったら聞かなくてもいいって諦めた。
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