優しい胸に抱かれて
■ナポリタン
‥‥‥‥‥‥
彼のことを意識するようになったきっかけ。あの日は1人、映画館の帰りだった。
劇場を出て映画館の出入り口、上映案内の前に彼がいたのだ。
『…あれ、柏木?』
『え、主任…?』
お互い、びっくりして目をぱちつかせ合う。それもそのはずだ、会社と[なぽり]以外で、こうして外で会うのは初めてだった。
『お疲れ様です。もしかして、主任も映画の帰りですか?』
『そ、レイトショー。来週は何観ようかって物色してたとこ。主任も、ってことは柏木も、ここよく来るの?』
『はい。安いし、人が少ないし。次の日が休みの忙しくない金曜の夜はいつも来ます』
『俺も。なのに、今まで会わなかったのが不思議だな。帰るなら送ろうか?』
『ありがとうございます。でも、これから彼氏のとこ行くんです』
『そっか。彼氏とは来ないの?』
『彼氏は映画観ないんです。この時間からじゃないと会えないから…、本当は時間潰しで映画館に来るようになっただけで…』
会社の上司にプライベートな、しかも異性のことは躊躇いがちになる。なるべくなら見られたくない部分だったからだ。それ以上触れてこなかったのが救いだった。
『…俺はこっち、駐車場。じゃ、気をつけてな』
『はい、主任も気をつけてくださいね』
『…柏木? 何かあったら電話しろよ』
車のキーを指にひっかけ踵を返した彼は、振り返ることなく声を張った。
『…え? あ、はい…』
頭を捻り、そんな後ろ姿を目で追っていく。急に何故そんなことを言われたのだろうと、まだこの時はわからなかった。
彼には何か確信があったのか、この後すぐに私が困ることになるって。
彼のことを意識するようになったきっかけ。あの日は1人、映画館の帰りだった。
劇場を出て映画館の出入り口、上映案内の前に彼がいたのだ。
『…あれ、柏木?』
『え、主任…?』
お互い、びっくりして目をぱちつかせ合う。それもそのはずだ、会社と[なぽり]以外で、こうして外で会うのは初めてだった。
『お疲れ様です。もしかして、主任も映画の帰りですか?』
『そ、レイトショー。来週は何観ようかって物色してたとこ。主任も、ってことは柏木も、ここよく来るの?』
『はい。安いし、人が少ないし。次の日が休みの忙しくない金曜の夜はいつも来ます』
『俺も。なのに、今まで会わなかったのが不思議だな。帰るなら送ろうか?』
『ありがとうございます。でも、これから彼氏のとこ行くんです』
『そっか。彼氏とは来ないの?』
『彼氏は映画観ないんです。この時間からじゃないと会えないから…、本当は時間潰しで映画館に来るようになっただけで…』
会社の上司にプライベートな、しかも異性のことは躊躇いがちになる。なるべくなら見られたくない部分だったからだ。それ以上触れてこなかったのが救いだった。
『…俺はこっち、駐車場。じゃ、気をつけてな』
『はい、主任も気をつけてくださいね』
『…柏木? 何かあったら電話しろよ』
車のキーを指にひっかけ踵を返した彼は、振り返ることなく声を張った。
『…え? あ、はい…』
頭を捻り、そんな後ろ姿を目で追っていく。急に何故そんなことを言われたのだろうと、まだこの時はわからなかった。
彼には何か確信があったのか、この後すぐに私が困ることになるって。