計画的俺様上司の機密事項
「染色女子かあ。コンセプトは悪くはないんだが」


紅葉とかけて身近にある布をつかって染物をしようという記事だった。

突飛だったかな、と思ったけれど、赤色や黄色、いろんな色に染めていくのは楽しそうと思って書いてみたのに。

二人の反応をみると、イマイチどころかあきれているようにみえた。


「すみません、書き直します」


「締め切りが迫ってるから。野上、これとは別の記事、出せるか」


「はい、締め切り前に出せます」


「それじゃ、お願いするとして、有沢は外部スタッフの管理を頼む」


「……わかりました」


野上くんの張り切るようなキーボード入力の小気味よい音に嫉妬してしまう。

せっかく遅くまで残って頑張って書いたのに。

メールをチェックして、外部スタッフからの記事をプリントアウトして校正をかけることにした。

外部スタッフということもあり、わたしよりも数段おもしろい記事を書いてくれていた。

気がつくとパソコンの時計が午後3時をさしていたので、別件の用事を済ませてきます、と二人に話して9階へと向かった。

鍵を開けて中へと入る。

誰もいないブラインドが閉ざされた広い部屋は一人では心細い。

入り口に入ってすぐの壁にあったスイッチを押し、明かりを灯す。

掃除道具はどこにあるのかと探しまわり、奥の扉をみつけ、ドアを開けると掃除機やモップが出てきたので、それを取り出していると、がちゃりとドアを開ける音がした。


「えらいな、夏穂。オレの命令を聞いて」


シンちゃんが腕を組み、入ってすぐの壁に背をもたれながら立っていた。


「結城部長の指示に従っているだけですからっ」


わざと大きな声を出して、掃除機をかけはじめた。
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