計画的俺様上司の機密事項
シンちゃんはわたしの顔をみて、いつもみせる優しい笑顔をみせてくれた。

仕事中にそんな顔されたら、胸がきゅっとなってちゃんとシンちゃんをみられない。

ゆっくりとこちらに近づいてくる。

掃除機を強めにして、シンちゃんから逃げるように掃除機をかける。

シンちゃんはわたしの後ろに回り、掃除機のホースを取り上げ、掃除機の電源を切った。


「それぐらい、いつも素直だといいんだけど」


「結城部長……」


素直って。どうせ素直じゃないですよ。それもこれもシンちゃんのせい。


「で、どうだった、朝飯。昨日の残り物だけど。あと、今日の弁当」


「し、知りません。ハンバーグとか、煮物とか食べてないし」


「食ってるじゃないか」


しまった。口を滑らせてしまった。

あわててシンちゃんから掃除機の柄をとり、電源を入れると掃除機の向きをかえた。


「拗ねるなよ。夏穂」


「いいんですよ。雑用でもなんでも。仕事なんですから」


「雑用? こういう機会、与えたのはオレだ」


「……だからって」


「こういう仕事も何かのヒントになりうると考えてみたらどうだ」


何かのヒントって。ただの雑用なくせに。

そりゃあ、シンちゃんは上司だし、いろんなことをやらなきゃいけないってわかるけど、でも、もう少し別の仕事を与えてくれてもいいんだけどな。

ブラシをこすりつけながら力まかせに掃除機をあやつる。みかねたシンちゃんが声を出す。


「てか、掃除機かけるの雑すぎ」


「じゃあやってくださいよ」


「家で十分やってる」


「……すみません」


「たくさん体動かせば、オレの飯が欲しくてたまらなくなるだろう」


シンちゃんは白い歯をみせて笑う。そして頭の上を大きな手でぽんぽんと軽く叩いた。


「今夜、楽しみにしとけよ。今日はちゃんと飯食え。いいな」


そういうと、シンちゃんは軽くぽんぽんと叩いた手を離し、その手を振りながら部屋から出ていった。
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