計画的俺様上司の機密事項
忘れていたという話なのか。でも、本格稼働するってわかっているはずなのに。

おかしな話だなと思って帰ろうとしたら、そばで、あちゃーと変な声をあげ、渡瀬先輩がガチャガチャとキーボードとマウスを叩いていた。

くるりとわたしの方を向いて、渡瀬先輩が悲しい声で、


「ごめん、有沢。お願いできる?」


といってきたので、


「わかりましたよ。どれですか」


と、渡瀬先輩のパソコンを借りてデータを直してから4階に戻った。


「あれ、結城部長は?」


「用事済ませて、そのまま帰るって」


「そう」


野上くんはそう一言いうと、自分の仕事に没頭していた。


「野上くん。パスワードの件なんだけど」


「パスワード、それが?」


「総務からお願いの紙が届いていたみたいなんだけど。野上くん、知らない?」


「知らないね」


野上くんはわたしに顔を向けず、パソコン画面に向かって話をしていた。


「野上くん、総務にいたことあるから、それぐらいのこと、知ってるはずだよね」


野上くんは手をとめて、わたしに顔を向けた。

その顔はいつも見るような、さわやかで優しい笑顔があふれているものではなく、強いまなざしで威嚇するかのようだ。


「確認しないほうが悪いんじゃないかな」


「え……」


「責任者は結城部長なんだから、それぐらいのことして当然なのにね」


ふっ、と鼻で軽くあしらうように笑い、野上くんはわたしから顔を背け、またパソコン画面に視線を戻していた。
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