Addictive Gummi


「あの……何からお聞きしていいのか分からないので、分かるように説明していただけたら……。それに、あの、ここじゃ……周りに筒抜けですよ」

 腫れ物を避けるようにして、近くの席は空いているけれど、少し離れた場所には社員が大勢いる。
 聞き耳を立てているに違いない。

 ただでさえ、異例の辞令発表があって、朝から社内はざわついている。
 その渦中のゆうひ部長が、社員食堂に来ているのだ。どうぞ噂の的にしてくださいと、言っているようなものだ。

 ゆうひ部長は微笑した。

「いいよ、別に隠してもしょうがないし。異動は発表があってみんなが知ってることだし、浅沼さんともこそこそ隠れて付き合う気はないから。オープンでいこうよ。それとも何? 婚約者の僕以外に、社内に気になる男でもいるの?」

 探るような視線を投げかけてくる、ゆうひ部長にどきりとした。

「あれ図星? 誰かな、潰しちゃおうっかな」

 先週までなら格好のついた台詞も、今は自虐ネタなのかと思えてしまう。

「そういう力、ゆうひ部長にまだあるんですか? あ、すみません。部長って呼んで」

 慌てて工場長と呼び直すと、ゆうひ部長改め、ゆうひ工場長は笑顔をなくした。

「浅沼さんって、謝りながら傷をえぐってくるタイプなんだ。いいね、そういうところ」


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