Addictive Gummi
それがあさひ部長だった。
確かに、当時のあさひ部長はまだ役職ではなかった。
本社勤めではなく、支店で営業マンをしていた。現場での武者修行というやつだ。
だから私はあさひ部長の顔を知らなかったのだ。
社長には二人の息子がいて、社員として働いているという噂は、知っていたけれど。
へえ~と思う程度だった。
組織の末端に位置する私には、関係のない話だと思っていた。
それにそのときのあさひ部長は、勤めている会社名を話さなかったし、私も話さなかった。
会社に内緒で副業のバイトをしているということは、褒められたことではない。
大学生? と聞かれて、はいと嘘をついてしまった。
そして、新しいブラウスを買ってくれるというあさひ部長のお言葉に、結局甘えた。
あさひ部長の押しが強かったというのもあるけれど、買ってくれるならありがたいと素直に思った。
ブラウス代とクリーニング代で、今日のアルバイト代は飛んでいくなあと、ブルーに思っていたからだ。
それに、あさひ部長ともう少し一緒にいたいと思った。
ハンカチを差し出してくれたときに、すでに一目惚れしていたのかもしれない。
女性たちからかばってくれたことも、とても嬉しかった。