Addictive Gummi


 それが『アディクティブ・グミ』だった。

 大人がスマートに携帯できるよう、名刺サイズの平べったいパッケージに、棒状の細長いグミが色鉛筆のように並んでいるシリーズで、当時発売したばかりだった。

 大学生だと嘘をつき、社会人であることを隠していた私にとって、それは突然突きつけられた自分の罪に見えた。


 ああ、これは嘘をついた罰だ。
 ちやほやされて調子に乗った報いだ。

 一夜限りで遊ばれて、おしまい。

 もう精算は済んでるよって。

 
「馬っ鹿みたい」

 手に取ったアディグミをゴミ箱に投げ捨てた。



 その三年後、あさひ部長と再会したときには、口から心臓が飛び出るかと思った。

 本社異動してきた社長のご子息、だったからだ。

 二十九歳という若さで経営戦略部長に就任し、抱負を語る姿をテレビ朝礼で拝見し、動悸が治まらなかった。

 初めて社内で顔を合わせたときには、どんな顔をすればいいのか分からなかった。

 業務上の書類のやり取りで、経営戦略部を訪ねたとき、目当ての人が席外ししていて、気付いたあさひ部長が代わりに受け取ってくれた。

 私を見て、顔色一つ変えなかった。とても素っ気なかった。

 ああ、やっぱりそうかと思った。

 私のことなど、すっかり忘れているのだ。


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