Addictive Gummi
「顔や爪にゴテゴテつけるの、好きじゃないんです。社内でみんなしてるって仰いますけど、それはゆうひ工場長やあさひ部長の周りではって話ですよね」
二人が本社に来てから、気合の入ったメイクや服装で出社する女性社員が増えた。
秘書課の皆さんは勿論のこと、商品開発課のまるっきり化粧っ気のなかった研究職の女性まで、フルメイクで出てくるようになったのだ。
あわよくば御曹司のお眼鏡にかなって、玉の輿で寿退職したいというのは、女のロマンだ。
左遷されたゆうひ工場長が、彼女たちの攻略対象外になったかというと、そうでもないようだ。
降格したとはいえ、社長の息子であることに変わりはないし、弱っているところを狙って、攻め入ってくる強者もいるようだ。
昨日、内々の送別会とやらに行っていたゆうひ工場長が持ち帰った餞別品には、下心が透けて見えるものがちらほらあった。
私との婚約は正式に発表はしていないけれど、ゆうひ工場長が社内でオープンにしているから、周知されているはずなのに。
相手が秘書課の美女ではなく、私だから?
「ああ、そっかあ」
私の不機嫌を受け止めて、ゆうひ工場長が何かひらめいたような声を出した。
「周りにいないタイプだからか。浅沼さんに、興味が湧くの」