Addictive Gummi

 きびすを返して、濡れたアスファルトを駆けて帰った。
 ちょうど通り雨が過ぎ去って、傘ももう必要ない。

 親切心を出して、傘を届けに来たのがアホみたいだ。

 お弁当だってわざわざ早起きして作ったのに。
 お仕事ご苦労様ですと、少なからず感謝の意を表したのに。

 これって馬鹿にしてる。私のことも、高島さんのことも。
 契約婚約の私はともかく、高島さんは会社を辞めてしまうほど重症な恋に落ちているのに。




「なんで責任取らないんですか?」

 帰宅したゆうひ工場長に、真剣に詰め寄った。

「え?」

 ネクタイを外す手を止め、ゆうひ工場長はきょとんとした顔をした。

「何の? ああ……結婚? 早くしたいの?」

「私じゃなくて。高島さんと結婚すべきなんじゃないですか? 責任取って」

 ゆうひ工場長の顔つきが変わった。険しく眉間を寄せた。

「彼女のこと誰から聞いた? 旭日? 杉山さん?」

 杉山さんって、杉山部長代理?

 ゆうひ工場長がいた商品開発部で、前に部長をしていた人だ。
 今は経営戦略部で、部長代理をしている。

 その二人は知っているってことか。ゆうひ工場長と高島さんとの関係を。

< 31 / 48 >

この作品をシェア

pagetop