Addictive Gummi


 あさひ部長と社長を敵に回す?

 それって社内で生きていけるの?


「……事情によります。どっちの味方をするかは」

「無難な答えだね。でもこっちはそんな賭けをする余裕はないよ。敵に回るかもしれない相手に事情は話せない。絶対味方になってくれるって、事情を話す前に約束してくれないと」

 ええっ、そんな無茶苦茶な。言ってる意味は分かるけど。


「どうする?……無理だよね」

 答えは分かっているとでもいうように微笑むと、ゆうひ工場長は解きかけのネクタイをしゅっと外して、折り畳んでスーツのポケットにしまった。

「じゃあ今日で婚約解消ってことで。短い間でしたが、お世話になりました。ご飯もお弁当も美味しかった、ありがとう。後で精算しとくね」

 そういうと、手際よく荷物をまとめてゆうひ工場長は出て行ってしまった。

 後で精算しておくという言葉が耳に残り、嫌な記憶を呼び覚ます。

“もう精算は済んでるから”

 五年前にあさひ部長が残した書き置きの言葉だ。

 やっぱり似ていないようで似ている兄弟だ。別れ際に『精算』という言葉を使うのは、お家柄?

 何なのよ、精算って。


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