Addictive Gummi
あさひ部長が目を丸くした。
「そんな相手がいるとは、全然知らなかったな。どうも、弟がお世話になっているようで」
さっきまでと打って変わり、柔軟な表情を見せてにこりと笑うあさひ部長を凝視した。
二人の空気に吞まれてしまって、一言も発言できない。
それに口の中には、よく分からない物が入っているし。
「逢瀬の邪魔をして悪いが、勇日、例の件で社長と大事な話がある。一緒に来てくれ」
「すぐ行きます」
その返事を聞いて、あさひ部長は降りてきた階段をまた上がって行った。
「ごめん、じゃあまた……後で内線鳴らすから」
まるで恋人のように耳元で囁いて、ゆうひ部長も行ってしまった。
ひたすら呆然として見送った。
何だ? 何だったんだ!?
とりあえず口の中の違和感を解消しよう。
ポケットからハンカチを取り出して口元にあてがって、そこに吐き出した。
それはマイクロSDカードだった。
スマホやデジカメに挿して使う、小さくて薄っぺらいメモリーカードだ。
何のデータが入っているんだろう。
通りすがりの私に手段を選ばず渡してきたということは、よっぽど……あさひ部長に見つかったらまずい物?