Addictive Gummi
愛はない、目的のある婚約



 衝撃的な昼休みが終わり、午後の仕事が一段落したタイミングで、ゆうひ部長から内線電話が回ってきた。

 どうやって私の所属部署が分かったのかというと、私が首からぶら下げている社員証を見て、記憶していたらしい。

 仕事が終わったら外で会おうと言われ、指定されたのがこの日本料理店だ。

 ドラマで政治家が密談するときに使うような、いかにも老舗で高級なお店の、貸しきり部屋。

 お酒とお通しを運んできた女将が挨拶を終えて出ていくと、ゆうひ部長は前置きもなく言った。

「SDカード持ってきた?」

「持ってきました」

 微妙な間が生まれる。

「……どこ? 返してほしいんだけど」

「お渡しする前に、教えていただけますか。あれは何のデータが入っている物ですか? ……それと、いきなりあんな行為をしておいて、何も無しですか?」

 とにかくSDカードさえ返してもらえればいいと、ゆうひ部長は思っているようだけど。
 素直に応じるわけにはいかない。

 堂々と持ち出せないようなデータをすんなり渡しても大丈夫?

 会社に言えないような悪いことを、ゆうひ部長がしているとは思いたくないけれど。


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