Addictive Gummi
「……なるほどね」
ゆうひ部長がそっと息を吐いた。
敵に回すのは怖い。相手は社長のご子息で、部長だ。
人事に手回しをして、どうとでも私を追い込めるだろう。
ゆうひ部長は穏やかそうに見えて、仕事では容赦がないという噂を聞いたことがある。
「浅沼いずみさん」
名前を呼ばれてドキリとする。
「入社五年目、二十八歳のOLさんね。彼氏は?」
「……いませんけど」
それ、いま関係ある?
数時間前まで、私の存在など知ってもいなかったのだろう。
ゆうひ部長はじっと私を見て、瞳を細めた。
「年もちょうどいいし、結婚しようか? 旭日にも紹介したし。それでどうかな? 悪い条件じゃないと思うけど」
はい?
ぽかんとしてしまった。
「わ、私は真剣に、あのSDカードを渡していいものかどうか、悩んでるんです。そういう誤魔化しかたって、無いと思います。場合によっては、あさひ部長に相談するつもりです」
あさひ部長の名前を出すと、ゆうひ部長の顔つきが変わった。
「それは困るな。僕を困らせて、浅沼さんメリットあるの?」
「別に、ゆうひ部長を困らせたいわけじゃないです。会社にとって、困ることじゃないんですか? あのSDカードのデータは、持ち出していいものなんですか? だったら、あさひ部長に言っても困りませんよね?」