Addictive Gummi
「カードの中身は詮索しなくていい。ただの社員には、踏み込んでもらいたくない領域だからね」
穏やかに、でも確固たる口調で、ゆうひ部長が言った。
そりゃ私は経営陣でもないし役職でもない。ゆうひ部長の言うとおり、ただの『OLさん』だ。
けど、こんな言い方って無い。
踏み込んでほしくない領域を、先に侵してきたのはそっちだし。
「ただの社員は、会社のことを心配しちゃいけないんですか? 黙って与えられた仕事をしていればいいだけだって……、今朝までは私もそう思ってましたけど。これが何か分からないまま、お返しすることはできません。もしゆうひ部長が、社員に後ろめたいと思えることをなさろうとしているのなら、一社員として見逃せません」
ああ、生意気にも歯向かってしまった。
これでクビ決定かもしれない。でも言ってしまったからには、引き下がれない。
きっと視線を上げると、ゆうひ部長が驚いたような顔をした。
「ありがとう」
え? なんで御礼……?
「僕に意見するのは勇気が要るだろうに、自分の保身よりも、会社に不利益をこうむらないことを尊重してくれて。いい社員だ。分かった、僕も思いきって浅沼さんにだけ話すよ。そのSDカードには……」
ごくりと息を吞んだ。
「無修正ポルノが入ってる。海外の、すっごくマニアックなやつ。超お気に入り版なんだ。誰かに見られたら、困るからね。返してくれる?」