Addictive Gummi


 ゆうひ部長が笑った。

「いいの? 恋愛抜きでも。結婚は条件さえ良ければ?」


「はい。ゆうひ部長なら、肩書きも収入も結婚相手として申し分ないですから」

 にっこり笑い返して嫌味を言うと、薄く微笑まれた。

「そうだね。でもそこしか愛されないなら、すぐに離婚になりそうかな。肩書きも収入も、失くしちゃったらごめんね」


 冗談のように言ったけれど、あの「ごめんね」は、本気の言葉だったのかもしれない。

 その四日後、ゆうひ部長は更迭された。

 週明けの辞令で、商品開発部の部長職を解かれ、工場へ異動。

 そしてなぜか、私のアパートに転がり込んできた。



「家出して、行くあてがなくてね。いまネカフェ難民してるんだけど、今日浅沼さんちに行ってもいいかな?」

 辞令が発表された日の昼休み、社員食堂に呼び出された。

 テーブルに向かい合って着くなり、そう言ったゆうひ部長に、

「え?」

 と言った。開いた口が塞がらなかった。

 会社を挙げてのドッキリかと思うほど、朝から驚きの連続だ。
 それは私だけじゃなくて、全社員がそう思っただろう。

 時期外れの異例の人事異動。社長の息子が降格、左遷。
 そしてなぜか総務部の地味な女と、社員食堂でランチを取っているのだから、誰もが目を疑っただろう。



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