オフィスのくすり
眠れない夜ーー
静かすぎる夜の職場と、静かすぎるひとり暮らしの家。
どっちがマシだろうな。
そんな考えても仕方のないことを考えながら、私はパソコンの画面と向き合っていた。
ずっと見ていると、目の前が真っ白になりそうな感覚に襲われる。
「じゃ、香苗(かなえ)ちゃん、お先にね~」
という声が間近でして、なにっ? とキーボードを叩きながら振り向いた。
床を滑らせ、デスクにぶつけるように景気良く椅子を片付けたのは、隣の席のオヤジだ。
「えーっ!?
武田さん!
まさか帰る気っ?」
「だってえ。
今日、姪っ子がお土産持ってくるんだよねえ」
と父親くらいの歳のはずなのに、武田は見逃してもらおうと甘えた声を出す。
「明日は付き合うから。
じゃ、頑張ってね。
ファーイトッ!」
まったく心のこもっていない声援を送り、武田は軽やかに出て行ってしまった。
広いオフィスに一人きりになってしまった。
だが、誰か居たところで、一人じゃ怖いだろうから、一緒に残ってあげようか? と男性陣が言ってくれる程の小娘でもない。
武田さんめ。
明日は付き合う……?
明日も残業する気はないぞ。
他の部署の人間はまだ残っているのだろうが、広いフロアだ。
何の気配も感じない。
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