オフィスのくすり
「なんとなくだけど、わかってきたぞ、この女の意図。

 まあ、待ってても、俺たちに結果はわからないんだろうけどな」

「どういう意味?」
と問うと、

「わからないか」
と勝ち誇ったように鼻で嗤ったあとで、

「まあ、お前にはわからないよな。
 こういう暗い情熱もしつこさもないからな」
と言う。

「あんたにはわかるの?」

「日本に帰国したついでに、元の女房のマンションを遠めに窺いに行った俺にはちょっとわかる」

「……未練があるなら別れなきゃいいのに」

「別れてから気がついたんだよ。

 俺と結婚するような物好きな女は他には居ないかもしれないと」

「それ、あんたが結婚した時点で、私たちにはわかってたんだけど」

「でも、井上さんのルックスなら、すぐ出来るんじゃないですか?

 相手の女性とあんまり会話とかしないうちに、さっさと結婚すればいいんですよ」

「さすがお前の部下だ……。

 口きいたと思ったら、ろくでもないことばかり言いやがる」
と井上は舌打ちをする。
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