オフィスのくすり
「じゃあ、井上さんは、何が良かったんですか?」

 携帯を取り出しながら、うん? と返事をした井上は、

「そうだなあ。
 気を使わなくていいところかな」
と言った。

「今日はなんの記念日でしょう? とか。

 私より先に、なになにちゃんに話しかけたとか言い出して、それで延々と妄想を繰り広げたりしなさそうなところかな」

「何か非常に具体的ですね」

 そういう人に疲れたんですね、と和泉は呟く。

 わかります的な口調に、意外にも、こいつ、そういうタイプの女の子と付き合った過去があったのか、と思った。

 ていうか、さっきからなんの話が展開してるんだ?

「さっき、好意を持っている人間にはしないと言ったが、どうだろうな?」
と井上は話を変える。

「好意を持ってた人間に、してるのかもしれないぞ」

「え?」

「かつて好意を持っていた人間に、と言うかな。

 このFAXの女は、十中八九、好きだった男に、これを送りつけている」

「えっ。
 なんのために?」
と私は物凄い形相の女の写真を見つめる。

「そりゃ、嫌がらせでしょう?」

 そんな和泉の言葉に井上は笑ったようだった。

「お前より、こいつの方が発想が女性的なようだな。
 そういう意味ではいいコンビか」
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