オフィスのくすり
「これが出来るのは君だけだ、とか調子のいいこと言っちゃって。

 みんな仕事押しつけていくんだから」

 そんな文句を言いながらも、私はキーボードーを叩き続けていた。

「ねむ……」

 こう連日残業が続くと堪えるな。

 そう。
 だから、最初はただ面倒臭かっただけだった。

 仕事が遅くなって、帰るのが面倒臭くなったから。

 それで、家に帰らず、自分のマンションに帰ったのだ。

 結婚するときに売ったはずのマンション。

 直前になって、買い手の人がリストラに遭ったとかって、売れなくなってしまった―ー。

 ということは、旦那には黙っていた。

 自分のくつろぐ場所にしようと密かに思っていなかったと言えば、嘘になる。

 家より近いから、という理由で、マンションに泊まった。

 楽だった。

 ひとりの生活。

 そして、そのままずるずると家に帰らなくなっていった。

 まあ、もちろん、他の理由が満載だからだが―ー。
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