オフィスのくすり
「だが、肝心のFAXが間違って、此処に届いてたんで。

 いきなり背後に立ってみたところで、
『なに? どうした?』
 って言われて終わりだったんじゃないか?

 そのあと、どうするつもりだったのか知らないが、恐らく、興がそがれて、やる気を失ったに違いない」

 そう言い、笑う。

「面白いから電話番号残しておこう」
と井上はFAXにあった番号をメモしていた。

「シュレッダーにでもかけて、捨ててあげましょうか」
と和泉が優しいことを言う。

 確かに、こんなもの残しておいて欲しくはないだろうと思った。

「……始末したって教えてあげるより、知らんぷりしとく方がやっぱ親切かな?」

 どうだろう? 自分だったら。

 捨ててもらったかどうか知りたい気もするし、間違って送りつけた相手からの電話なんて受けたくもないような気もする。

「まあ、放っといてやれ。

 俺の予想じゃ、社内で不倫でもして、クビになって。

 相手の男に恨みのFAX送って、ナイフで一刺しか、一脅し、くらいを考えてたんじゃないか?

 少し心配させて、他所に気を向けさせた方がいい」
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