オフィスのくすり
「……もともと嫌いじゃなかったし。

 そこまで好きでいてくれたのかっていう感慨もあった。

 ま、それも、ほんとに怪我しなかったから思えることだろうけど。

 和泉と比較して、淡々としている旦那の愛情も疑った」

「だから、それはーー」

「そうね。
 あんたが言うように、あの人は大人だから、冷静なだけなのかもしれないわね」

 組んだ足先を見つめ、そう漏らす。

「でも、こんなFAX見ると、いろいろ疑問に思っちゃうわね」

「何が?」

「人が人を好きになるのって、素晴らしいことだと思ってたけど。

 どうなんだろう?

 本気で誰かを好きになって。
 何かで不安になったとき。

 みんな、こんな夜叉みたいな顔してんのかな?」

「それも悪くないんじゃないか?

 俺はあの形相、嫌いじゃないね。
 人間らしくて」

 笑ってそんなことを言い出す井上の顔を見上げた。

「あんたって……結構、私好みの性格だったのね」

「気づかなかったろう?
 今更気づいても、どうにもならんだろうが」
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