オフィスのくすり
一瞬の間を置いて、どたどたという足音がした。
妻が帰ってきたというのに、何か信じられないものでも見たかのように夫は目を見開く。
「……ただいま」
とその頓狂な顔に向かって言う。
緊張を読み取られないよう俯き、靴を脱ぐような仕草をしたとき、
「お帰りーー」
という小さな声がした。
顔を上げると、ほっとしたように笑いかけてくる夫の顔があった。
「ただいま」
もう一度そう繰り返した私は、鞄を突き出し、微笑んだ。
「あー、疲れた。
荷物くらい持ってよね~。
ご飯まだある?」
「一度くらい作ってから言え。
……ないこともない」
そんな旦那のぼやきを聞きながら、笑って廊下を歩き出す。
まだ足に馴染んでいない艶のある古い床が、確かに自分の家だと感じられるようになるまで、何度も此処を踏みしめられる自分で居たいーー。
そう願った。
完
妻が帰ってきたというのに、何か信じられないものでも見たかのように夫は目を見開く。
「……ただいま」
とその頓狂な顔に向かって言う。
緊張を読み取られないよう俯き、靴を脱ぐような仕草をしたとき、
「お帰りーー」
という小さな声がした。
顔を上げると、ほっとしたように笑いかけてくる夫の顔があった。
「ただいま」
もう一度そう繰り返した私は、鞄を突き出し、微笑んだ。
「あー、疲れた。
荷物くらい持ってよね~。
ご飯まだある?」
「一度くらい作ってから言え。
……ないこともない」
そんな旦那のぼやきを聞きながら、笑って廊下を歩き出す。
まだ足に馴染んでいない艶のある古い床が、確かに自分の家だと感じられるようになるまで、何度も此処を踏みしめられる自分で居たいーー。
そう願った。
完