彼が嘘をついた
「まぁ、いいや。
泊まりの話しはまた今度な。
とりあえず今日は、俺のこと、名前で呼んで。
そしたら、マンションまで送って行くよ」

「……えっ?」
全然、良くないよ!
やっぱり、名前呼びしなきゃならないの?
ついさっき、"仮"のお付き合いを承諾したばかりなのに!
…私には、ハードルが高すぎます!

「ねぇ遥。早く呼んで!
それとも、帰りたくないの?
それなら、遥をマンションに送らないで、俺の部屋に連れてく?」

「ちょ…、違う。
ちゃんと、自分のマンションに帰ります!」

「うん、そうだよね。
じゃあ早く、俺の名前を呼ん…」

「は、隼人…くん」

彼の言葉に被せるように彼の名前を呼んだ。
ちょっと、どもっちゃったけど。

「うん。
どもられたし、"くん"はいらないけど、まぁ頑張ったね。
少しづつ慣れてくれればいいよ。
ありがとう」

彼は笑顔で言うと、
「歌わないのに、いつまでもカラオケボックスにいるわけに行かないから帰ろう。
ちゃんと送るから」

そうして、先にボックスを出て歩き出した。

彼、隼人くんの後ろを歩く。
すると、すっと腕を引かれて、隣に並ばされた。

「後ろじゃなくて、隣を歩いて」
そう言われた。

なんだか、少し照れ臭い。でも、嫌な感じはしなかった。



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