彼が嘘をついた
実家を飛び出した時、雨がパラパラと降りはじめていた。
だけど、そんなことは気にせずに駅まで走った。

マンションまでは2駅だ。
少し濡れた髪をハンカチで拭いて電車に乗る。
2駅分乗って電車を降り、駅の外を見る。
雨はザーザーと強くなっているが、そのままマンションに向かって歩き始めた。
駅からマンションまで15分くらいだから、少しくらい濡れても平気。
そう思った。

マンションが見えて来て、だけどコンシェルジュのいる正面から入る勇気はなくて、裏の駐車場からエレベーターに乗り込んだ。
そうして向かったのは、自分の部屋ではなく、隣の隼人くんの部屋。

ピンポーン

彼の部屋のインターホンを押すと、すぐにドアが開いて彼が出てきた。
…まるで、誰かが来るのを待っていたかのように、本当にすぐに。

彼は私だと分かると、
「どうした?こんなに濡れて…。
風邪ひくから、すぐに風呂に入って!」
とバスルームに案内された。

そこにはタオルと上下のスエットが用意してあって、
「とりあえず上がったらそれに着替えて。
あと、濡れた服は乾燥機にかけるから、そっちに入れて。
身体、冷えてるだろうから、ゆっくり暖まるんだぞ」
彼はそう説明すると、バスルームを出て行った。

1人になった私は、急に身体の冷えを感じて、言われたままにお風呂に入った。


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