彼が嘘をついた

「……………」

「……………」

「……………」

私たちは、美鈴先輩の次の言葉を待った。

「……………」

「…もう分かるよね?
私が付き合っていたのは、時期社長になる予定の佐久間晃部長なの」

「……………」

「彼の結婚と同時に、彼が社長の息子だと発表された。そのとき、私とのことを秘密にしてた理由が分かった。
…最終的に、彼は私とは一緒になれないって分かっていたの。だから、そうなったときに、私が後ろ指を指されないようにしてくれたの。彼の、優しさだったのね…。
おかげで私は、周りから非難されるわけでもなく、同情されるわけでもなく、庶務の仕事をしていられるの」

そう話す先輩は穏やかな顔をしている。
初めて見る、愛されている女性の表情(カオ)だ。

それと同時に、先輩の私に対する優しさの意味を知る。
先輩はきっと、私が彼の妹だって知っているはず。これまでの先輩の行動を見れば、それは間違いない。

今日、私の帰りを待っていたのも、このマンションを知っているのも、それはらば納得がいく。
だって、ここについたとき、ヒロくんと話していたじゃない。
『晃から"遥の話し相手になってやってくれ"って言われて来たのよ』って。

このときに、気づけるはずなのに…。
やっぱり、いろいろ動揺しているな…


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