彼が嘘をついた

「ちょっとすみません」

断ってから席を立つと、周りにいた人たちも、自分の席へと戻って行く。

「おはよう」
廊下の隅で、真由子と隼人くんと話す。

「遥、今朝は早かったんだね」

「うん、ごめんね。
会議室の準備があったから」

「そうだよね。
髪型、変えたんだね。
すごくかわいいよ。ねっ、隼人」

「ん。…あぁ」

「何それ。
そんな素っ気ない言い方したら、遥にフラれちゃうよ！」

「…うるさい！真由子には関係ないだろ！」
そう真由子に言う彼の顔が少し赤いのは気のせいだろうか…

「まぁ、いいけど…。
あっ、遥。今日はお昼、無理だよね？」

「うん、ごめんね。
水曜日まで、会議があるから約束出来ないかな」

「分かった。
…あっ！じゃあ私、先に行くね」

そうして真由子が行ってしまうと、隼人くんと2人きりになってしまう。

「遥」

不意に彼に名前を呼ばれてドキッとする。

「…今日、一緒に帰れる？」

「うん。定時で上がれると思うけど…」

「…俺もしばらく定時だから、着替えたらエントランスで待ってて」

「うん、分かった」

こうして隼人くんと話が終わり、総務部に戻ろうとした私。
でも…

「あっ、佐久間副工場長！」

隼人くんがそう呼ぶのが聞こえて振り向くと、そこには兄がいた。

「おはようございます」

私も彼を真似て挨拶をした。