彼が嘘をついた
「さぁ、いくら部長がいないからって、お茶休憩はこれくらいにして仕事を始めよう!」

渡辺課長の喝に、
「はーい」と返事をしながら席に戻る。

「遥、時間ある?
カップ洗いに行こう」
美鈴先輩に言われて、私は給湯室に向かった。

先輩がスポンジで洗ったカップを、私が濯いでいく。

「ねぇ遥。
私はさ、二宮くんか五十嵐くんだと思うの」

突然、先輩に話し掛けられ、「えっ?」と驚く私に先輩は続ける。

「佐久間くんの親族。
"本社にいる"ってことで噂になっているけど、佐久間くんは"2人いる"って言ったよね?そしてそれは、その場にいた私たちしか知らない。
五十嵐くんは高野さんと、二宮くんは遥と従兄弟同士だから私はそう思うんだけど…」

「……………」
やっぱり美鈴先輩は鋭い!

「ごめんね。
私が勝手にそう思うだけだから。
…もし身分を隠したいなら、女子の方かなって。
だから、気にしないで。
でも、力になれることがあったら言ってね。
私はいつまでも、遥の先輩だから」

「…ありがとうございます」

美鈴先輩の言葉に、涙ぐみそうになる。
それを堪えて、濯いだカップをフキンで拭く。
それを先輩が、戸棚に仕舞っていってくれた。






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