彼が嘘をついた
もちろん、私が会長の孫で社長の娘というのは、親友の真由子にも秘密にしている。と言うか、私自身、その肩書きがいらない。

現在、那須工場の副工場長を務める兄は、祖父や父の言う通りに幼稚園から私立の有名学校を出てきた。
そんな兄の最終学歴は、T大の経済学部を首席で卒業と言う、ある意味"御曹司"と言う言葉が似合う経歴だ。
幼い頃から祖父や父の跡を継ぐのが当たり前に思っている兄にとって、親の決めた道を進むことは当然のことなのだろう。

対して私は、幼稚園·小学校は親の言う通りに私立を卒業したが、中学からは身分を隠して公立に進んだ。
『四つ葉フーズの会長の孫』と言うだけで、まだ小学生の私の機嫌まで取る大人たちを見て、嫌気がさしたのだ。

多分、ヒロくんも私と同じ考えなのだろう。
彼も、中学から公立に変えた。
私が選んだ中学は、ヒロくんと同じところ。
「ヒロくんが一緒だから大丈夫だよ」と言うと、祖父も父も、すんなりと許してくれた。
ヒロくんと一緒の期間は1年だけだけど。周りの誰も、私の機嫌を取ることをしない。そんな環境が、心地好かった。

就職に『四つ葉フーズ』を選んだのは、せっかく管理栄養士の資格をとったので、その資格を活かせる仕事がしたかった。
祖父にも、父にも、内緒で採用試験を受けた。
自信はなかったが、蓋を開けたら"採用"との通知が来ていた。


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