彼が嘘をついた
何とも言えない沈黙が続く中、それを破ったのは五十嵐くんだ。

「…こんな言い方はおかしいかも知れないけど、野瀬さんがそんな人だったなら、大石は別れて正解じゃない」

「えっ…?」

「だって…、人を肩書きだけで見てるってことだろう?
そんなんじゃなくて、ちゃんと大石を見てくれる人を探した方がいいと思うよ」

五十嵐くんが恵に語りかける様子は、ヤキモチを焼いてしまう程、優しさに溢れている。

…イヤだな。
…あんまり恵に、優しくして欲しくないな。
…なんだろう、この気持ち…

「隼人の言う通りだよ。
今の大石にはひどい言い方だと思うけど、早く野瀬さんのことは忘れて、ちゃんと大石のことを見てくれる人と出会えることを願うよ」

五十嵐くんに続いて、ヒロくんも恵に優しく語りかける。

でも…
そんなヒロくんを見ても、五十嵐くんのときのように胸が痛むことはない。

どうして?

「五十嵐くんも、二宮くんもありがとう。
さぁ、時間までいっぱい食べよう!
そろそろデザートに行かなくちゃ!」

「遥、楓恋ちゃん。
私たちもデザート取りに行こう!」

真由子に言われて、私は席を立った。

そして、大好きな甘いものをたくさんお皿に乗せた。
それらを食べても、美味しさを感じない。
ずっと胸がモヤモヤしたままだった。




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