彼が嘘をついた
どうしてだろう…?
仲の良い2人を見て、もっと胸が痛むと思ったのに…
私より真由子を見つめるヒロくんに、何も感じなかった。
それよりも、真由子とヒロくんを私と同じように見送る五十嵐くんが、すごく気になる。
「遥、俺たちも行こう。
ちゃんと送るから心配しなくていいよ」
五十嵐くんは私の手を引いて歩き出した。
「うん」
私は彼に着いて歩いた。
彼と繋いだ手は、温かかった。
しかし、胸には切なさが広がった。
マンションの前まで来て、五十嵐くんと向き合った。
「送ってくれてありがとう。
もう、ここで大丈夫だよ。
また来週、会社でね」
頑張って笑顔を作り、彼に言った。
彼がそのまま帰ると思っていた私は、次に彼が言った言葉に驚いた。
「……えっ?」
戸惑う私に、彼はゆっくり丁寧に、もう一度繰り返した。
「大樹から聞いてない?
今日は俺、大樹の部屋に泊まるから。
で、明日と明後日で、俺と大樹の荷物を入れ替える。部屋を交代するんだ。
そうすれば…
俺の部屋は真由子の隣だし、大樹と真由子は、いつも一緒にいられるだろう。
まぁ、俺と遥にも同じことが言えるけど…」
「……………」
…あまりに急すぎる話に、頭がついていかない。