彼が嘘をついた
湖までの道のりは、少しも退屈しなかった。
好きな曲を聞きながら、だんだんと緑が増えていく景色を眺める。

五十嵐くんも、
「あー。俺、この曲好きなんだ!」
と言いながら口ずさんだり。
信号待ちでは、コーヒーで喉を潤したりしながら、楽しく湖を目指した。




「もうすぐ着くから」
そう言われたのは、緑が深くなってきたとき。

その言葉通りに、それから5分ほどで着いた。
駐車場に車を停め外に出ると、気持ちいい風が抜けた。
時刻は5時を過ぎたばかり。
まだまだ陽が高い。

「ねぇ五十嵐くん。
遊覧船に乗らない?」

湖を約30分かけて1周する遊覧船が、ちょうど5分後に出航する。
せっかくだから乗りたくて、私はそう誘った。

「あぁ、いいよ。
行こうか」

そう言って彼が差し出した手を、自然にそのまま繋いで歩き出した。

「大人2枚で」

彼が一緒にチケットを買ってくれた。

そのまま遊覧船に乗り込むと、
『まもなく出航いたします』
と放送が流れ、ゆっくりと船が動き出した。
船が岸を離れる様子を、見下ろしていた。
五十嵐くんも私の隣に立ち、同じ風景を見ている。

少しづつ船の速度が早くなり、頬を撫でる風も強くなる。

「風が強くなってきたから、中に入ろう」

五十嵐くんについて、中に入った。


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