彼が嘘をついた
この遊覧船に乗っているのは50人くらい。
私たちは窓側の景色が良く見える席に座ることが出来た。

船内放送では、湖の出来た経緯や、名前の由来などをしゃべっている。
…誰も、自分たちの話に夢中で、放送なんか聞いていないけど。

私は五十嵐くんと向かい合って座っているけど、まともに彼を見れなくて、外の景色を見ているフリをする。
だけど意識は、完全に五十嵐くんに向いている。

(…今だよね。
今が、避けてしまっていたことを謝るチャンスだよね…)
そう思った私は、

「あの…」
と、彼の方を見て話しかけた。

それと同時に、
「あのさ…」と、彼も私に話しかけた。

「何?」
「…なに?」
また同時に返事をした。

一瞬の間の後、
「…俺はあとでいいよ。
遥から先にどうぞ」

私が言おうと思っていたことを、先に言われてしまった。

「……………」

「……遥…?」

「…あぁ、うん。
ごめんなさい。
あのね…」

なかなか上手く言葉が出てこない。

「……………」

「……………」

そんな私を、急かすでもなく、じっと見つめている。

「……しばらく、…避けてしまって、ごめんなさい…」

そんな彼から視線を逸らし、俯いたまま、やっとそれだけを言った。


< 92 / 198 >

この作品をシェア

pagetop