彼が嘘をついた
帰りも音楽を聴いたり、話をしたりしたから、退屈しなかった。
1時間強でマンションの駐車場に着くと、自然に手を繋いでお互いの部屋の前まで行く。

「…今日はありがとう」

「いや…。
俺の方こそ、来てくれてありがとう。
…ずっと、避けられているの辛かったし、想いを伝えられて良かった。
俺の気持ち、受け止めてくれてありがとう」

「……うん………」

「……………」

「……………」

…今の気持ちを"離れがたい"って言うのかな。
すぐ背中に自分の部屋があり、「おやすみ」って言って鍵を開けて中に入ればいいだけなのに、まだそれをしたくない私がいて…。
…もしかして、彼も同じ気持ちでいてくれる?なんて、思ったりもして…

「……………」

「……………」

…でもやっぱり、この沈黙は怖い。

そんなことを考えていると、不意に腕を掴まれ、彼の部屋に一緒に入る。
そして、玄関が閉まると同時にキスされた。

意味が分からなくて彼を見上げると、
「…遥も俺と同じ気持ちだと思ったんだ」
そう言われる。

「えっ…?」

「…まだ部屋に帰したくなかった。
もう少し、一緒にいたいんだ」

「…うん。
私も…。私も、もう少し一緒にいたい…」

彼も同じ気持ちだと知って、ようやく自分の想いを口に出した。


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