オトナチック
でも消えなかった。

気がついたら杉下くんのことを目で追ってしまっている自分がいた。

「だから私たちの関係は契約なんだってば…」

そう呟いた後、わにの目線になって湯船に顔を沈めた。

ブクブクと水面に泡があがる。

私が杉下くんに好きだと告白をしたら、杉下くんはどんな顔をするのだろうか?

思いあがるなって言って怒られるかな?

それとも、嫌そうな顔をされるのかな?

…本当のところはどうなのかはよくわからないけれど。

湯船から顔をあげると、手の甲で口元をぬぐった。

正直なことを言うと、今のままで充分なのかも知れない。

会社ではただの同僚で、家ではただの同居人、杉下くんのおばあさんの前では婚約者――必要に応じて演じるこの関係の方が、私たちにはちょうどいいのかも知れない。
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