オトナチック
杉下くんは、私がおばあさんから隠していた秘密を聞いたことを知らない。

そのことに気づかなくてよかったと、私は思った。

同時に、私の胸がチクリと痛くなった。

おばあさんは私が本当に杉下くんの婚約者だと思って、私に全てを話した。

本当は、そんな関係じゃない。

杉下くんのおばあさんを安心させるために、私は彼のために形だけの婚約者をしているだけ。

「高浜?」

杉下くんに名前を呼ばれたので、
「あっ…どうしたの?」

私は聞き返した。

「いや、何でもない」

杉下くんは首を横に振った。

その様子にも、私の胸がまたチクリと痛くなった。
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