オトナチック
――私は、いつまで杉下くんの婚約者を演じればいいのだろう?

契約だけの関係はもう嫌だ。

形だけの関係はもう嫌だ。

安心させるためとは言え、おばあさんにウソをついている。

私はいつになったら、杉下くんの本当の婚約者になれるのだろうか?

気がついたら、私の中で杉下くんへの思いが芽生えてしまっていた。

この気持ちを消すためには、どうすればいいの?

杉下くんの本当の婚約者になれない代わりに、この気持ちを消せば私は楽になれるのだろうか?

「あっ、ついたな」

「…そうだね」

電車が駅に到着すると、私たちは座席から腰をあげて電車を降りた。

いつの間にか芽生えてしまったこの気持ちの消し方を、私は知らない。

知らないから、彼に気づかれないように隠すことしかできない。
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