オトナチック
「幸い一命は取り留めたんですけど、そのせいで植物状態になってしまい、しばらく昏睡をしていました。

私は勤めていたパートを退職して、夫を介護していました。

去年の暮れくらいだったと思います。

夫の唇が動いて、音を発したんです」

寺本さんはそこで言葉を区切った。

「――“和泉、ごめんな…”」

寺本さんが発した言葉に、私は耳を疑った。

「そう言った夫の目から涙がこぼれました。

夫は、“和泉、ごめんな…”と泣きながら何度も言っていました」

そのことを思い出したのか、寺本さんの目から涙がこぼれた。

「初めは…別れた女の夢を見ているのだろうかと思っていました。

夫から離婚歴があることを聞かされていたので、もしかしたらそうなのだろうと」

「え、ええ…」

そう考えるのは、仕方がないことだと思う。
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