オトナチック
「あの、杉下さん」

その声に視線を向けると、寺本さんが集中治療室から出てきたところだった。

「はい、何でしょうか?」

そう聞いた杉下くんに、
「実は、これなんですけれど…」

寺本さんが私たちに何かを見せた。

「定期入れ、ですか?」

杉下くんは首を傾げた。

寺本さんが手に持っているそれは、黒い革製の定期入れだった。

長いこと使っているのか、端の部分が擦り切れていた。

「主人の何ですけれど、見てもらえませんか?」

「ああ、はい…」

杉下くんは寺本さんの手から定期入れを受け取った。
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