オトナチック
私も杉下くんの目線にあわせるようにその場に座った。

杉下くんは嗚咽をもらし、時おり洟をすすっていた。

「主人は杉下さんのことを心の底からとても大切にしていたのかも知れません。

できることなら自分が杉下さんを引き取って、自分の手で育てたかったかも知れません」

上から寺本さんの言葉が降ってきた。

お父さんは杉下くんのことを愛していた。

愛していたから彼が赤ちゃんの頃の写真を定期入れに入れて、大切に保管していた。

自分のせいで杉下くんと離れることになってしまったけれど、それでも彼のことを忘れなかった。

いや、忘れられなかったと言った方が正しいのかも知れない。

「杉下くん」

カバンからハンカチを取り出すと、杉下くんに差し出した。

杉下くんはそれを受け取ると、涙をぬぐった。
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