オトナチック
「それから、定期入れなんですけれども…」

そう言って定期入れを見せた杉下くんに、
「もらっていいか、ですよね?

いいですよ、あなたにあげます。

そうした方がきっと主人も喜ぶことでしょう」

寺本さんが言ったので、
「ありがとうございます。

大切にします」

杉下くんは大切そうに定期入れを胸に抱えた。

病院を後にすると、私たちは近くのファミレスで食事をすることにした。

「本当に使いこんでいるって言う感じだね」

定期入れを見ている杉下くんに、私は話しかけた。

「少なくとも、20年以上は使っていると見た方がいいな」

杉下くんはそう言った後、定期入れから写真を取り出した。

「これしか持っていないんだろうな」

杉下くんは呟いた後、写真を見つめた。
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