オトナチック
「あの…」

声を出したけど、すぐに口を閉じた。

「んっ?」

杉下くんが首を傾げてきたので、
「気をつけて行ってきてね」

私は言った。

「週末には帰ってくるから」

杉下くんは微笑むと、バスルームへと足を向かわせた。

彼の後ろ姿を見送った後、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出した。

それを持って自室へと入ると、すぐに座り込んだ。

本当は、言いたかった。

――私も一緒に行っていい?

そう、杉下くんに言いたかった。

だけど、言えなかった。

杉下くんとお父さんの最後の時間を邪魔しちゃいけないと思ったからだ。

でも、杉下くんなら言ってくれるんじゃないかと思っていた。

またついてきてくれるかって、そう言ってくれるんじゃないかと思っていた。
< 268 / 326 >

この作品をシェア

pagetop