オトナチック
10・愛しているとささやいて
だいぶ温かくなってきたところを見ると、春はもうすぐのようだ。

お父さんの四十九日がこの間で終わったけど、杉下くんからの返事はまだ聞いていなかった。

もしかして、忘れているとかじゃないよね?

本人にそう聞こうかと思ったけど、失礼だと思ったからやめた。

几帳面な杉下くんが忘れるはずなんてないとは思うけど、本当に忘れられていたら…いろいろな意味で私は立ち直れないかも知れない。

だけど、もうそろそろ出してもいいんじゃないかしら?

そう思いながら、私は隣で回鍋肉をつついている杉下くんをチラリと見た。

ここはやはり、直接聞いた方がいいかも知れない。

そう思って口を開こうとした時、
「おっ、悪ィ」

杉下くんはテーブルのうえに箸を置くと、シャツの胸ポケットからスマートフォンを取り出した。
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