オトナチック
フワリと、窓から温かい風が入り込んできた。

「もうすぐ春だな」

杉下くんが言ったので、
「春だね」

私は言った。

「近いうちにこの家に引っ越しをして、一緒に住もうな」

「うん」

つきあっていた彼氏に振られて、住んでいたところを追い出されたあの日。

困っていた私に手を差し伸べて助けてくれたのは、杉下くんだった。

彼のおばあさん孝行に協力するために偽りの婚約関係を結んだけれど、それが本当になる日がくるとは誰が思っていただろうか?

告白の返事を待っていてよかった。

長い長い時間だったけれど、それは全てこの日のために用意されていた時間だったんだね。

「芽衣子」

杉下くんが私の名前を呼んだので、
「和泉」

私は彼の名前を呼んだ。
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