ほとんどパラダイス
別人のような面差し。
でも、私がゆらゆら揺れて映っているその瞳は変わってない。
私はため息をついて、薬袋を袂(たもと)に入れながらお家元の隣に正座してから上総(かずさ)んに返事を促した。
「お家元が仰ってるのに、ちゃんと返事して。」
ビクッと上総んが反応した。
「……学美(まなみ)……」
「私は後!先にお家元!」
そう言うと、上総んは慌ててお家元に向き直った。
お家元は物珍しそうに私と上総んを順に見比べて笑った。
「へええ。やっと焦点あったんちゃう?」
「……失礼しました。」
上総んはやっとお家元に両手をついてご挨拶した。
ちょっとホッとした。
「えらいひどい状態やないの。そんなんで踊ってるん?そら、あかんわ。彩乃から聞いて半信半疑やったけど、ほんまに調子悪かってんなあ。」
お家元はそう言ってから、お扇子で少し自分を扇ぎ、おもむろに言った。
「どないしましょ?最後の舞踊、観んと帰ってやろうかと思っててんけど。……私が観る価値ありますか?」
厳しい言葉に驚いた。
上総んは返事に窮していた。
いつまでも答えない上総んに、イラッとした。
「……観てください。素人の私でさえ、昨日観て衝撃をうけました。お家元の目でご覧になって、どれだけ酷いかをちゃんと本人に言ってやってほしいんです。今後のために。お願いします。……このまま終わらせませんから。」
沈黙に耐え切れず、私は手をついてお家元にそうお願いした。
「学美……昨日って……」
私を見た上総んに、思わず舌打ちした。
上総んはシュンとして、うつむいた。
お家元はしばらく黙っていたけれど、扇子をパチンと閉じてから言った。
「わかりました。拝見しましょう。その代わり、容赦なくダメ出しさせていただきますよ。千秋楽まで、少しでもマシになるように、お稽古に来ますか?」
「上総ん!」
息をのんでいる上総んに返事を強要した。
「……よろしくお願いいたします。」
上総んがそう言って頭を下げるのに合わせて、私も黙ってお家元に頭を下げた。
「それじゃ私は席に戻りますね。お稽古のこと、勝手に決めちゃったから明子ちゃんに相談しなきゃ。……孫の恋人で、私の秘書とお稽古場の管理を一手に引き受けてくれてるねんけどね、あの子もあれでしっかりしてて、けっこう怖いんよ。だから任せられるねんけどね。ほな、お先ぃ。」
お家元はそう言い残してさっさと楽屋を出て行った。
間髪入れず、無言で上総んが私を抱きしめた。
「ちょ……痛いって。それに、こんなとこで!丸見えやってば!」
そう言ってもがいて離れようとしたけれど、ますます強く抱きしめられてしまった。
「……もう。上総ん、痩せて、痛いわ……骨。」
文句を言うと、やっと上総んが私から身体を離した……腕は回したまんまだけど。
「まさか学美にソレを言われる日が来るとはね。」
皮肉っぽい上総んの口調に苦笑した。
でも、私がゆらゆら揺れて映っているその瞳は変わってない。
私はため息をついて、薬袋を袂(たもと)に入れながらお家元の隣に正座してから上総(かずさ)んに返事を促した。
「お家元が仰ってるのに、ちゃんと返事して。」
ビクッと上総んが反応した。
「……学美(まなみ)……」
「私は後!先にお家元!」
そう言うと、上総んは慌ててお家元に向き直った。
お家元は物珍しそうに私と上総んを順に見比べて笑った。
「へええ。やっと焦点あったんちゃう?」
「……失礼しました。」
上総んはやっとお家元に両手をついてご挨拶した。
ちょっとホッとした。
「えらいひどい状態やないの。そんなんで踊ってるん?そら、あかんわ。彩乃から聞いて半信半疑やったけど、ほんまに調子悪かってんなあ。」
お家元はそう言ってから、お扇子で少し自分を扇ぎ、おもむろに言った。
「どないしましょ?最後の舞踊、観んと帰ってやろうかと思っててんけど。……私が観る価値ありますか?」
厳しい言葉に驚いた。
上総んは返事に窮していた。
いつまでも答えない上総んに、イラッとした。
「……観てください。素人の私でさえ、昨日観て衝撃をうけました。お家元の目でご覧になって、どれだけ酷いかをちゃんと本人に言ってやってほしいんです。今後のために。お願いします。……このまま終わらせませんから。」
沈黙に耐え切れず、私は手をついてお家元にそうお願いした。
「学美……昨日って……」
私を見た上総んに、思わず舌打ちした。
上総んはシュンとして、うつむいた。
お家元はしばらく黙っていたけれど、扇子をパチンと閉じてから言った。
「わかりました。拝見しましょう。その代わり、容赦なくダメ出しさせていただきますよ。千秋楽まで、少しでもマシになるように、お稽古に来ますか?」
「上総ん!」
息をのんでいる上総んに返事を強要した。
「……よろしくお願いいたします。」
上総んがそう言って頭を下げるのに合わせて、私も黙ってお家元に頭を下げた。
「それじゃ私は席に戻りますね。お稽古のこと、勝手に決めちゃったから明子ちゃんに相談しなきゃ。……孫の恋人で、私の秘書とお稽古場の管理を一手に引き受けてくれてるねんけどね、あの子もあれでしっかりしてて、けっこう怖いんよ。だから任せられるねんけどね。ほな、お先ぃ。」
お家元はそう言い残してさっさと楽屋を出て行った。
間髪入れず、無言で上総んが私を抱きしめた。
「ちょ……痛いって。それに、こんなとこで!丸見えやってば!」
そう言ってもがいて離れようとしたけれど、ますます強く抱きしめられてしまった。
「……もう。上総ん、痩せて、痛いわ……骨。」
文句を言うと、やっと上総んが私から身体を離した……腕は回したまんまだけど。
「まさか学美にソレを言われる日が来るとはね。」
皮肉っぽい上総んの口調に苦笑した。