ほとんどパラダイス
「こんにちは。ご無沙汰いたしております。……この着物ですか?祇園のおかあさんにお借りしました。」
大旦那の目が懐かしい目になった。
「そう。それね、むか~し私があの人に見立てたんですよ。」
ギョッとした。
「え?そうなんですか?……すみません、大切なものをお借りしてしまったんですね。」
てゆーか、2人はそういう関係だった、ってことか?
いや、過去形とは限らないけどさ。
「いや、かまわないよ。あなたにも、よく似合ってる。……それより、すまなかったね。」
謝られた!
慌てて手を振った。
「謝らんとってください!それよりも、上総(かずさ)んのこと、よろしくお願いします!あんななっちゃったけど、心を入れ替えてもう一度やり直させますから!……茨の道でしょうし、大旦那だけが頼りなんです。」
そうお願いすると、大旦那は微笑した。
「そう。やり直す気にさせてくれたのかい?ありがとう。」
妙にくすぐったく感じた。
大旦那を見送ってしばらくすると、芝居が終わったらしく客席のドアが開いた。
売店でコーヒーを3つ購入して座席に戻った。
「先ほどはありがとうございました。」
そう言って、コーヒーを手渡した。
お家元は楽しそうに笑った。
「びっくりしたわ。しはらさん……学美ちゃん?腰の低い礼儀正しい子ぉやと思ってたら、和成ちゃんには厳しいんやもん。怖い怖い。明子ちゃんと一緒。」
思わず、明子ちゃんと呼ばれた女の子と顔を見合わせた。
その明子ちゃんがうれしそうに話しかけてきた。
「和成さんからうかがったんですけど、学美さんと私、おんなじ高校やったんですよ。学美さんが高3の時、私は中2でした。」
怖さは感じないし、むしろシンパシーを覚えた。
「そうなの!?えー。偶然。」
「しかも、学美さんの卒業された大学は彩乃くん……副家元が中学高校と通った学園です。ご縁ありますね、私たち。」
ニコニコとそう言われ、ますます「怖い」意味がわからなくなった。
社交的なイイ子じゃないか。
てゆーか、彩乃「くん」?
女性名のように聞こえるけど、男なのよね?
……日本舞踊でも女形みたいな感じ?
「それでお稽古、かまへんよね?私が見るさかい。」
お家元が明子ちゃんにそう確認した。
「もちろんです!夏休みで日中は賑やかですけど、夜は逆に余裕ありますし。て、お家元の決定に私が文句言うわけないじゃないですか。」
「せやかて、先月、彩乃さんに怒ってたやん。勝手にお稽古つけて、って。」
「あれは、彩乃くんがただでさえ大学忙しくてお稽古を他の先生に代わってもろてる状態やのに、勝手にタカラジェンヌの出稽古を引き受けるから……せめてこちらに通ってくれるならともかく。」
「……なんや、ヤキモチかいな。」
「違います!」
ムキになって否定する明子ちゃんをからかうお家元。
仲良しだなあ、と微笑ましく見とれた。
大旦那の目が懐かしい目になった。
「そう。それね、むか~し私があの人に見立てたんですよ。」
ギョッとした。
「え?そうなんですか?……すみません、大切なものをお借りしてしまったんですね。」
てゆーか、2人はそういう関係だった、ってことか?
いや、過去形とは限らないけどさ。
「いや、かまわないよ。あなたにも、よく似合ってる。……それより、すまなかったね。」
謝られた!
慌てて手を振った。
「謝らんとってください!それよりも、上総(かずさ)んのこと、よろしくお願いします!あんななっちゃったけど、心を入れ替えてもう一度やり直させますから!……茨の道でしょうし、大旦那だけが頼りなんです。」
そうお願いすると、大旦那は微笑した。
「そう。やり直す気にさせてくれたのかい?ありがとう。」
妙にくすぐったく感じた。
大旦那を見送ってしばらくすると、芝居が終わったらしく客席のドアが開いた。
売店でコーヒーを3つ購入して座席に戻った。
「先ほどはありがとうございました。」
そう言って、コーヒーを手渡した。
お家元は楽しそうに笑った。
「びっくりしたわ。しはらさん……学美ちゃん?腰の低い礼儀正しい子ぉやと思ってたら、和成ちゃんには厳しいんやもん。怖い怖い。明子ちゃんと一緒。」
思わず、明子ちゃんと呼ばれた女の子と顔を見合わせた。
その明子ちゃんがうれしそうに話しかけてきた。
「和成さんからうかがったんですけど、学美さんと私、おんなじ高校やったんですよ。学美さんが高3の時、私は中2でした。」
怖さは感じないし、むしろシンパシーを覚えた。
「そうなの!?えー。偶然。」
「しかも、学美さんの卒業された大学は彩乃くん……副家元が中学高校と通った学園です。ご縁ありますね、私たち。」
ニコニコとそう言われ、ますます「怖い」意味がわからなくなった。
社交的なイイ子じゃないか。
てゆーか、彩乃「くん」?
女性名のように聞こえるけど、男なのよね?
……日本舞踊でも女形みたいな感じ?
「それでお稽古、かまへんよね?私が見るさかい。」
お家元が明子ちゃんにそう確認した。
「もちろんです!夏休みで日中は賑やかですけど、夜は逆に余裕ありますし。て、お家元の決定に私が文句言うわけないじゃないですか。」
「せやかて、先月、彩乃さんに怒ってたやん。勝手にお稽古つけて、って。」
「あれは、彩乃くんがただでさえ大学忙しくてお稽古を他の先生に代わってもろてる状態やのに、勝手にタカラジェンヌの出稽古を引き受けるから……せめてこちらに通ってくれるならともかく。」
「……なんや、ヤキモチかいな。」
「違います!」
ムキになって否定する明子ちゃんをからかうお家元。
仲良しだなあ、と微笑ましく見とれた。