ほとんどパラダイス
だけど……。
何をどう報告できる?
……この先の展開も……とても峠くんにメールできる内容だとは思えない。
ため息が勝手にこぼれた。
自分が最低な女に感じる。
あ、そっか。
上総(かずさ)んに対してまだ距離を感じてるのは、その負い目なのかな。
今夜、どうしよう。
松尾先生……実家……ホテル……。
また、ため息がこぼれた。

23時半頃、お家元が帰って行かれた。
「明日からはまっすぐ、うち、おいない。でも食事はちゃんと摂るんやで。」

お家元を見送った後、上総んはがっちりと私の腕を掴んだ。
「いいおっしょさんねえ……って、逃げへんから放してよ。暑っ苦しい。大阪、戻るん?終電間に合う?」
「……学美も一緒なら大阪に帰る。」
思わず、マジマジと上総んを見た。
「私が実家に帰るって言ったら?どうするの?」
上総んは悲しい顔をした。
「ココに泊めてもらう。……でも、眠る自信ない。また明日の舞台、寝不足で立つことになるかも……」

おい。
それ、脅しだよ。
てか、確信犯だろ。
半ば呆れたけれど、上総んの瞳がうるうると揺れてるのを見ると……負けた。

「わかった。ほな、急ごう。おかあさ~ん。終電、間に合うかどうかわからんけど、出ますわ~~~。また来ます~!」
そう声をかけて、動作の鈍い上総んを引っ張って、駅へ急いだ。

車内、上総んはずっと私に触れていた。
人目を気にすることもなく、私の手や頬に唇を這わせる。
2ヶ月以上行き場を失っていた上総んの想いがそうさせるのだろう。
困るけれど……私の心も次第に溶かされていく気がした。

上総んの借りてるホテルの部屋に着くなり、貪るように抱かれた。
真夏でかなり汗をかいたのでシャワーを浴びたかったのに、まだエアコンが充分に効いてない部屋でのめくるめくセックス。
2人とも、汗なんだか涙なんだか、涎なんだか愛液なんだか精液なんだか、わけがわからないぐらいドロドロになって七転八倒した。
体力激減の上総んと、もともと虚弱な私のこと、結局そのまんま抱き合って眠った。
体はクタクタなのに、心は明らかに満たされた。
……今までで一番よかった……。
快楽の深さが、2人の壁を打ち砕いたのかもしれない。


翌朝、目覚めるとすぐにまた交わった。
シャワーを浴びたい、汗を流したい……私の願いは、聞き届けられるまでに、かなりの時間を要した。
上総んは私に何度熱を放っても手放してくれなかった。
結局、狭いユニットバスでも、シャワーに打たれながら貫かれた。
やりすぎて中が痛い……最終的にそう訴えて逃れた。
少し出血してるようだ。
……手加減してくれない、理性を失った猿のように腰を振り続けた上総んが……憎たらしいほど愛しかった。

「久しぶりに、朝飯食ってるかもしれない。」
近くのホテルのビュッフェで、もりもりとご飯もパンも咀嚼しながら、上総んはそう言った。

ま~、満たされた顔しちゃって。
ニコニコと私を見つめて、たまにわざわざ手を伸ばしてきて私に触れて……まるで私の存在を確認してるかのよう。

「それだけ食べられるなら、すぐに体力戻るわ。」
戻ったら戻ったでこわいけど。
抱きつぶされてしまうかもしれない。

てか、速効、妊娠しそう。
今の上総ん、躊躇ないよな。

ため息がこぼれた。
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